下水管の臭気対策

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下水管やマンホールから発生する臭気は、地域住民からの苦情や健康被害につながるおそれがある深刻な問題です。

本記事では、下水管が臭う主な原因と、臭気ガス(硫化水素)がもたらすリスク、そして効果的な脱臭方法について解説します。

下水管が臭う原因と
それに伴うリスク

有機物・油脂・汚泥の
蓄積による腐敗

家庭や飲食店から流入した有機汚泥や油脂が下水管内に堆積すると、臭気の原因となります。堆積した有機物や油脂を嫌気性微生物が分解する過程で、臭気成分が発生するためです。

特に、流れが滞留しやすい配管やマンホール底部では腐敗が進行しやすいデッドスペース。管壁に付着した油脂が「油脂塊」となって汚水の流下を妨げることで、デッドスペースからの臭気発生を助長する場合もあります。

硫化水素の発生

「腐った卵」に例えられる特有の悪臭を放つ硫化水素は、下水道臭の代表的な原因ガス。特に、酸素が乏しい環境(嫌気性状態)では、硫化水素を生成する硫酸還元菌が活発に働きやすくなります。

その傾向は、流速が低下して汚泥が沈殿しやすい場所や、水温が25℃以上に上昇する夏季などで顕著です。

硫化水素発生によるリスク

健康被害への影響

下水道作業中の硫化水素中毒による死亡事故は、これまでにもたびたび報告されているのが現状。硫化水素は極めて有毒なガスであり、濃度によっては人体に深刻な影響を及ぼします。

濃度10〜15ppmといった低濃度でも長時間曝露すれば目の粘膜に炎症を起こし、200ppm程度では数分以内に目や喉の痛みを感じるケースも少なくありません。500ppmを超える高濃度では嘔吐や呼吸困難、意識障害などの重篤な中毒症状を引き起こし、1,000ppm以上では呼吸停止に至る危険があります。

参照元:無臭元工業公式HP(https://www.mushugen.co.jp/article/gesui-kanro)
住民からの苦情と地域への影響

下水管から漏れ出す臭気は、近隣住民の生活環境に直接影響するため、自治体への苦情の主要な要因です。悪臭防止法の規制対象でもある硫化水素臭は、ごく低濃度でも不快感を訴える声も。夏場など臭気が発生しやすい時期には苦情が集中しやすくなります。

一度苦情が寄せられると、原因調査や改善対応に多大な時間とコストが発生。自治体にとっては対応工数の負担に加えて、地域イメージの低下につながる恐れがあります。

参照元:無臭元工業公式HP(https://www.mushugen.co.jp/article/gesui-kanro)

下水管を脱臭する主なシステム

活性炭吸着方式

細かな孔を持つ活性炭などの吸着剤に臭気成分を捕捉させて除去する、古典的な脱臭方式です。比較的低〜中濃度で小風量の臭気に適しており、マンホールや小規模排気口など局所的な下水臭気の処理に効果を発揮します。

ただし、湿度が高く粉塵を多く含む下水ガス環境では吸着剤の劣化が早く、長期運用には向いていません。

主な特徴

  • 構造が簡易で設置・運転が容易
  • 酸含浸活性炭によりアンモニアなど塩基性ガスにも対応可能
  • 高湿環境では性能低下や寿命短縮に注意が必要

薬液スクラバー方式

水や酸・アルカリ溶液などの薬液を使って臭気成分を洗い落とし、化学反応によって吸収・中和する方式です。いわば、水や薬品で臭気を「洗い流す」脱臭手法といえます。

中〜高濃度で連続的な臭気処理に適しており、し尿処理施設や汚泥処理施設などの下水関連設備では高い効果を発揮。酸性・アルカリ性ガスを多く含む環境にも対応しやすい一方、薬液管理や廃液処理が必要となるため、狭隘な下水管内部での設置には不向きです。

主な特徴

  • 高濃度・高風量の排気にも安定して対応
  • 化学反応による高い除去効率を発揮
  • 薬液管理・排水処理の運転負荷が発生

オゾン・プラズマ

オゾンやプラズマを利用した脱臭技術は「促進酸化法」の一つで、強力な酸化力で臭気物質を分解する方式です。オゾン法は生成したオゾンを、プラズマ法は高電圧放電で発生させたオゾンや非常に反応性の高い原子や分子を利用します。

低濃度・大風量の拡散臭に適し、薬剤不使用で環境負荷が低いメリットがある一方、閉鎖空間への直接適用は安全面や設置スペースの制約から困難です。

主な特徴

  • 薬剤を使用せず酸化分解によって脱臭
  • 硫黄系・混合臭にも対応可能
  • 設備コストや安全管理への配慮が必要

生物脱臭法

人工の充填材に微生物を付着させ、そこに悪臭ガスを通気し、水分や栄養分を供給して微生物に分解させる脱臭方法です。

下水管の臭気対策に生物脱臭法を用いる際、課題となるのは高濃度の硫化水素。これは微生物に毒性を示すため、特殊な微生物の選定や前処理が必須となり、安定した脱臭能力を維持するには厳密なpH管理が不可欠です。

主な特徴

  • 比較的コンパクトな設計が可能
  • 維持管理に専門知識が必要な場合がある
  • 土壌脱臭よりランニングコストがかかる

土壌脱臭方式

微生物の働きを利用して臭気成分を分解・除去する、生物脱臭法の一種。生物脱臭との違いは、土壌中に生息する微生物が有機物を分解し、臭気を自然のプロセスで浄化することです。

低〜中濃度で中風量の下水由来臭気に適しており、下水管・マンホール・ポンプ場・処理施設など、さまざまな排気ガス処理に採用。薬剤や活性炭の交換を必要とせず、送風機による通気だけで稼働するため、電力消費が少なくランニングコストを抑えられます。

主な特徴

  • 薬液などが不要でランニングコストを抑えられる
  • 長期安定運転が可能で維持管理が容易
  • 高濃度臭気や短時間ピーク処理には不向き
下水管の臭気対応に
適しているのは土壌脱臭装置

下水管の臭気対策には、薬剤や電力を多く消費する方式よりも、自然の力を活かして臭気を分解する土壌脱臭装置がおすすめ。湿気や粉塵が多い下水環境でも微生物が安定して働くため、性能が低下しにくく、活性炭や薬液を使う方式のような吸着剤交換や薬液管理も不要です。

本サイトでは、失敗しない土壌脱臭装置選びができるようおすすめの装置を徹底調査しました。水処理系・汚泥処理系の脱臭といった対象物別におすすめの装置を紹介。各装置におすすめの施設も記載していますので、ぜひご参考ください。

水処理向け・汚泥向け
土壌脱臭装置2選を見る

下水管の臭気に対応する
土壌脱臭装置メーカー一覧

ライズ

ライズの土壌脱臭装置

引用元:ライズ公式HP
(https://www.kk-raiz.jp/)

下水管の脱臭対策を目的とする公共施設をはじめ、住宅や商業施設、市庁舎など幅広い施設での導入実績があります。実績を裏付けるのは、希少な黒曜石を発泡加工したモーカライトやモーカソイルと独自の技術。高い保水性と微生物定着性を両立した脱臭床を形成し、特に排水処理系の低濃度臭気に対して安定した効果を発揮します。

また、第三者機関の試験により、大腸菌や真菌類の除去効果が確認されており、衛生面でも信頼性の高いシステムです。

※参照元:ライズ公式HP【PDF】(計量証明事業所エージーサービス「検査結果報告書」2020年9月3日)(https://www.kk-raiz.jp/deodorizer/pdf/deodorizer_doc.pdf)

ニチボー環境エンジニアリング

ニチボー環境エンジニアリングのバイオソイル土壌脱臭装置

引用元:ニチボー環境エンジニアリング公式HP
(http://biosoil21.co.jp/)

日本下水道事業団(JS)との共同研究に基づき、汚泥処理系の高濃度臭気対策に強みを持つメーカーです。

し尿処理場や堆肥化施設などを主な対象とし、吸湿性と脱臭性能を併せ持つ粒状ゼオライトを高含有率で配合。高濃度の硫化水素に対しても除去性能を発揮します。

生物スクラバーが主流となっている領域でも導入可能で、薬液や消耗資材を必要としない構造のため、ランニングコストを大幅に抑えられるでしょう。

※参照元:ニチボー環境エンジニアリング公式HP(http://biosoil21.co.jp/product/)

都市テック

都市テックの土壌脱臭装置

引用元:都市テック公式HP
(https://toshi-tech.main.jp/index.html)

多様な設置方式の土壌脱臭装置を提供。一般的に土壌脱臭装置は土木工事を伴いますが、都市テックでは現場条件に応じて「地盤掘削式」「側壁コンクリート式」「FRP一体型」など複数の方式を用意し、柔軟な設置対応を可能にしています。

マンホールやポンプ場の排気口など、下水管から発生する臭気対策においても、地上スペースや既設構造物の近接環境に対応できるため、都市テックの土壌脱臭装置は有力な選択肢の一つです。

アクリ

土壌脱臭装置のイメージ

引用元:アクリ公式HP
(http://www.aquri.co.jp/product/dozyodassyu/)

省力・省スペース型の土壌脱臭装置を手がけています。狭いスペースでも設置可能で、無人でも安定稼働する省力設計を採用。都市部の下水管やポンプ場など、人手が限られた現場での臭気対策におすすめです。

ろ材は長寿命化が図られており、定期的な交換や攪拌といった作業をほとんど必要としません。運転管理の負担を軽減できる点も特長です。